ピロリ菌除菌について
ピロリ菌とは?
ヘリコバクター・ピロリが正式名称です。通常は胃の中では強い酸により細菌は生きていけませんが、ピロリ菌は酸を中和する酵素を持っているため、胃の中でも生息することができます。
1982年にオーストラリアの医師により発見され、その後の研究で胃炎や胃潰瘍、胃がんなど様々な病気の原因となっていることが明らかになりました。
どうやって感染する?
感染経路はまだはっきりとはわかってはいませんが、親子間などの口~口感染が大部分だろうと考えられています。また、乳幼児期の衛生環境がピロリ菌感染に関係していることがわかっていて、上下水道の整備に伴い、現在若年者の感染率はかなり低くなっています。
わが国のピロリ菌の感染率は60歳以上では約50%ですが、10代以下の感染率は10%以下になっています。
ピロリ菌がいるとどんな病気を引き起こす?
多くの方で胃に炎症を起こしますが、ほとんどの方は自覚症状がありません。胃炎が持続することで、一部の方で胃潰瘍、胃がん、MALTリンパ腫などの病気を生じることがあります。また十二指腸潰瘍や、特発性血小板減少性紫斑病などの胃以外の病気にも関係しているとされています。
胃がんとの関係
胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎などの患者さん約1500人を対象としたわが国の調査では、10年間で胃がんになった人の割合が、ピロリ菌に感染していない人では0%であったのに対し、感染している人では2.9%であったとされており*1、ピロリ菌の感染が胃がん発症のリスクになりうることが示唆されます(ただしこれはピロリ菌に感染していない人は絶対に胃がんにならないという意味ではありません)。
ピロリ菌を除菌することで、新しい胃がんの発生率を下げることができる可能性が報告されており*2、ピロリ菌に感染している方は除菌治療を受けていただくことが勧められています。
*1 Uemura N, et al. :N Engl J Med. 2001; 345(11):784-9
*2 Fukase K, et al. :Lancet. 2008;372(9636):392-7
治療の流れ
ピロリ菌の感染が疑われる患者さんのうち以下に当てはまる方
- 内視鏡またはバリウム検査で胃潰瘍、十二指腸潰瘍の診断がされた方
- 胃MALTリンパ腫の方
- 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の方
- 早期胃がんに対する内視鏡的治療後の方
- 内視鏡検査で胃炎と診断された方
ピロリ菌検査(血液検査など)
陽性
1次除菌治療(7日間)
4週間以上あけます
陰性
除菌治療不要
ピロリ菌検査(尿素呼気試験)除菌できたかどうかの検査
陽性
2次除菌治療(7日間)
4週間以上あけます
陰性
除菌成功!
ピロリ菌検査(尿素呼気試験)除菌できたかどうかの検査
陽性
除菌不成功
陰性
除菌成功!
除菌治療の実際
以下の3種類の治療薬を朝・晩の1日2回、1週間内服します
- ボノプラザン(胃酸を抑える薬)
- アモキシシリン(抗生物質)
- クラリスロマイシン(抗生物質)
副作用としては、下痢、一時的な味覚異常、アレルギー反応などがありえますが、重篤なものはほとんどありません。
1次除菌が不成功の場合は、一部の薬を変えて(クラリスロマイシン→メトロニダゾール)、改めて2次除菌を行います。これらの薬で90%以上の成功率が得られています。
※以下に当てはまる方は治療が困難な場合がありますのでご了承ください
- 腎機能障害のある方
- 抗生物質にアレルギーがある方
- 1週間の内服継続が困難な方
ピロリ菌の治療の前には胃カメラを受けましょう
ピロリ菌がいるかどうかは、血液検査などで比較的簡単に調べることができます。また、もし菌がいる場合は、薬を1週間飲むことで除菌治療を行います。
これだけ見ればピロリ菌の除菌にあたり胃カメラを行う必要はなさそうに見えますが、実際は治療の前に胃カメラを受けていただくことが勧められます。理由は以下の通りです。
- 保険でピロリ菌の検査、除菌を行う場合、胃カメラで胃炎などの病気があることを確認する必要があります。
→特別な場合を除き、通常は胃カメラで胃炎などがないとピロリ菌の検査には保険が適応されません。その場合は検査、治療は自費での診療となります。- もしピロリ菌がいて除菌する場合、早期胃がんがあった場合に治療に支障が出ることがあります。
→仮に早期胃がんが胃の中にあった場合、ピロリ菌の除菌を行うことでがんが平坦化し、分かりにくくなるということが報告されています*3。すると、完治できるはずの胃がんが分かりづらくなることで、治療に支障がでる可能性があります。
*3 Ito M, et al. :Aliment Pharmacol Ther. 2005; 21(5):559-66.
上記のような理由から、ピロリ菌の除菌にあたっては、あらかじめ胃カメラを受けていただくことが勧められます。検査、治療に関しては適宜診察時にご相談ください。